最近、珍しく(?)ハードカバーを続けて読了したので。
神林の雪風シリーズの最新刊。最近出たばっかりです。
まだ読了1回目ですが、現時点での感想は
「神林味がえらい濃いなあ」
神林の得意技、形而上学的/概念的なアクロバットでストーリーに意外性を持たせる、
という手法がこれでもかと詰め込まれています。
はっきり言って哲学書の雪風風味、と言ってしまった方が近いくらい。
戦闘機ものを期待して買った人は多分後悔するでしょう。
神林作品を読んだことが無い人や、SFに慣れてない人などは、「意味不明」で終わって
しまうかもしれません。
逆に、哲学系の本や理論物理学系のノンフィクション本を読むのが好きな人であれば、
「こんなストーリーの組み方があるのか!」と背筋をゾクゾクさせながら読めると思います。
いわゆる古典的な「SF」の王道が、「こんな科学技術があったら世界はどうなるか?」、
であるとするならば、神林小説は、「こんな概念が成立したら世界はどうなるか?」
そういう意味では、神林小説は、philosophictionとでも言うべきものかもしれません。
(そんな単語は多分無いですが)
誤解を恐れずにまとめてしまうなら、
「情報理論で物理学を構築しなおし、大統一理論に王手をかけよう」
という野望を抱いている科学者、セス・ロイドのエッセイです。
「情報」の観点から宇宙を解釈し、「宇宙は巨大な量子コンピュータである」
という結論にたどり着くまでの道筋を、量子力学や量子コンピュータの原理を
交えながら解説しますが、文章自体は平易なもので数式も殆ど出てこないので
頭が痛くなるような本ではありません。
ただ、前提としている知識が多い、というか、説明不足の部分が多々あるため、
出てくる考え方の基礎だけでも押さえていないと、書いてある意味が
分からないかもしれません。
不確定性原理、量子ゆらぎ、カオス、情報工学の基礎、(情報工学で
いうところの)エントロピー、あたりについて、概念でも知っていると、
割とすんなり読めます。
私としては、「万物は情報である」という筆者の概念には共感するところも
多々あり、また、「無知が感染する」など、目から鱗が落ちるような考え方に
気づかせてくれるような部分もあり、なかなかの良書でした。