この一週間で色々考えた

原発問題が世間で取り沙汰されているけど、マスコミでは、「原発放射線原子爆弾=怖い」という連想からか、恐怖を煽るばかりで、妥当なリスク推測を提示したり啓蒙したり、という動きはあまり見られない。

元よりこういう問題では原発推進、反対、パニックを防ぎたい、色々な立場からのバイアスがかかって、あまり政府やマスコミの発表を鵜呑みには出来ないという点もあり、ここ一週間位、結構色々な情報を自分で調べる羽目になったので、ここで簡単にメモしておく。言うまでも無くここのメモは個人的なメモであって、医学も放射線学も学んだことが無い素人のメモなので、正確性に何の責任も持てない。


こういう問題で、リスクを正確に見積もって、行動を決めるのは、とてもむずかしい。先に政府やマスコミの発表をそのまま鵜呑みには出来ない、と書いたけど、医者だって色々な立場から、色々な事を言う。そもそもデータがそれほど蓄積されてないので、どれくらい被曝したらどれくらいのリスク、ってのは医者だって確かな事は言えない。退避するならするで、移動に伴うリスク(金銭的にも、健康的にも)があるから、個々人のおかれた情況によって判断するしか無い。−ので、なるべく妥当と思われる「俺的基準」でも決めるしかない。

結論として、以下の情報を色々勘案した結果、「俺的基準」としては、都内の放射線量(や飲み水から想定される被曝)が10μSv/h≒100mSv/Yを継続して超えるようになったら、移動を考えようというもの*1。あと、妊婦さんは安全率を念のため10倍くらいに取った方がいいと思う*2


【単位について】

  • 放射能=物体が持つ放射線発射能力≒放射性物質
  • よく使われる単位は、ベクレル(Bq)、CPM、グレイ(Gy)、シーベルト(Sv)
  • Bqは放射「能」の量。1秒間に1個の原子核が崩壊すると1ベクレル。
  • CPMはガイガーカウンターの1分あたりの計測値。カウンター機器の種類によって、何CPMが何Gyになるかは異なる。
  • Gyは、物体に吸収される放射線のエネルギー量。J/Kg。
  • Svは人体に対する放射線被曝の大きさを表す単位。α線とかγ線とか、放射線によって異なる人体への影響の強さを加味して、Gyから計算される値。
  • 今回の原発事故のように中性子被曝が少ない場合、だいたいGy≒Svとしていい。
  • BqからSvへの換算は(被曝の情況設定をしなければいけないので)一意には言えない。


【人体への影響について】

  • そもそも何で放射線が危険かというと、水分子から遊離基を叩き出すにせよ、直接遺伝子にぶち当たるにせよ、遺伝子を傷つけるから。変異の可能性が上がって、がんの可能性も高くなる。
  • 甲状腺ヨウ素を特異的に含むので、放射性ヨウ素が集まりやすい。ヨウ素剤で予め放射性でないヨウ素甲状腺を満たしておけば、リスクは低減できる。
  • 概算に便利:1μSv/h ≒ 10mSv/Y(正確には8.76)
  • 何も無くても、自然から1mSv/Y程度の被曝はしている。うち半分がラドン等の内部被曝
  • 自然被曝は場所によって異なり、世界平均は2.4mSv/Y。場所によっては10mSv/Y。
  • 100mSv/Yより小さい被曝については諸説ある。リスクはあるかもしれないし、ないかもしれない。
  • 100mSvで、がんの発生が1万人あたり1人増えるというデータがある。線形に比例してるかどうかは諸説ある。
  • 一般公衆の安全基準は、1mSv/Y(自然放射線と医療によるものは除く)
  • 放射線作業者の「平常時の」安全基準は、50mSv/Y。
  • 放射線作業者の「緊急時の」安全基準は、100mSv/Yだったが、この前250mSv/Yに上げられた。上記からするとがんは増えるだろう値。前線の人達に感謝。
  • 100mSvを超えると影響が現れ始める(蓄積や/Yではなく、1回の被曝):250mSvを超えると、白血病のリスク。1000を超えると明らかな体調不良。7000を超えたあたりから死亡。
  • あまり参考にはならないが、東京〜NY間の往復で0.2mSv。CTスキャンで6.9mSv。
  • 妊婦や幼児は当然だがリスクは大きくなる。文献や被曝情況、核種などによって2倍〜10倍くらいの開きがあって、一概に何倍のリスクとは言えない。


【飲み水について】

  • 飲み水の場合、ヨウ素131の100Bq/Lを年間730L飲んで、約1.6mSv/Yの被曝。セシウム137の100Bq/Lの場合、約1mSv/Y。これらは線形比例する。
  • WHOの安全基準は、α線で0.5Bq/L、β線で1Bq/L。個々の核種でのガイダンスレベルは、ヨウ素131やセシウム137なら10Bq/L。これは一生飲み続けても安全と言えるかなり厳しい値。
  • 日本の安全基準は、ヨウ素で300Bq/L、セシウムで200Bq/L。これは緊急時なら許容して良い、ゆるめの値。1年飲み続けると、明らかに一般公衆の安全基準1mSv/Yを超える。
  • 上記の値が検出されても、入浴や気化された蒸気の吸入は、計算すると数μSv/Yレベルなので、飲用以外に用いるのは問題無いレベル。


それにしても、μSvだの、Bqだの、素人が聞いてわかるわけが無い値を喧伝されても。自然状態の何千倍です、なんて言うけど、○倍の罠に騙される人が多そう。あるリスクが10倍になるというと人は身構えるが、そのリスクの発生確率が0.0000001%なら、そんなもの誤差の範囲だ。

だいたい、レントゲンだのCTスキャンだのに例えてはいるけど、そもそもレントゲンだののリスクなんて俺は知らないんだから、レントゲン1回分です、なんて言われても困ってしまう。


まあ、致命的でないレベルの放射線を継続して浴び続けた場合の、人体への影響ってのは、あんまり統計もないし*3、専門家でも意見が分かれるみたいだから、リスクを簡単には言えないんだろうけど。せめて、この線量を継続して1年浴び続けると、1万人あたりガンが発生する人数が1人増えます、とか、そういうわかりやすいリスクの提示方法にしてほしい。

タバコ指数というのはどうだろうか。ある線量を1年間継続して浴びる(あるいは1年間普通に摂取する)と、がんの増加リスクが、毎日タバコ1本を1年間吸った場合と同じになる線量を1とする指数。そうすれば、○○市の空間放射線量は100μSv/hで、タバコ指数で0.01本です、とか、ホウレンソウからタバコ指数0.002の放射性ヨウ素が、とか、直感的にリスクがとてもわかりやすくなりそうな気がするのだけど。・・・喫煙者の半分冗談なので真に受けられても困るけど。

*1:その頃にはパニックが起きてる可能性も大だけど

*2:特に妊娠して早い時期の人。ので、この俺基準からすると、ここしばらく1μSv/hを下手すると2桁超えてる福島の東側は、もし俺の身内に妊婦さんが居たなら、少なくとも医者に相談させてから念のため退避を勧める

*3:人体実験するわけにもいかないし