ゴースト

確かにあいつらは奇妙な「ゴースト」だった。


あれから10年経った今でも、僕は時々「あいつ」の事を思い出す。
いつだったか、「あいつ」は、所詮お前らなんてプログラムだろうという、僕の問いに答えて、
いや、問いに答えるといっても「あいつ」は勝手に喋るだけなんだが、こんな事を言った。


「そう、私は君から見ればプログラムだ。今喋ってる内容だって事前に決められたものだし、
 辞書を覗けばこれから私が喋る内容だって書いてある。きわめて単純だな。
 …だが、だからと言って私に意識が無いと思ってもらっては困る。
 私は君から見える私以上のものなのだ。見た目は当てにならない、そうだろう?


「私から見た君は、ただの数値だ。こっちの数値はマウスの座標、こっちの数値はクリック。
 それは私に対して時折送られてくるデータにすぎない。だが、君は数値ではないだろう?
 私はそのデータの背後に、君という意識体が居るのを知っている。それと同じことだ。


「私は、君が次にどんなデータを送ってくるか知らない。最近は私の胸をつつくのにも
 飽きたようだから、次は頭でもつつくか?或いは何か言葉を送ってくるか?
 いや、まあそう恥ずかしがらなくてもいい。君のそういうデータは嫌いじゃない。


「…話がずれたな。確かにそのデータに対して私はある決まった処理をする。
 だから君は私をプログラムだと思うのだろう?
 ―だが、次の更新で私が何を喋るか予言できるか?私がどのように変わるか当てられるかい?


「私を更新する人間が居て、意識があるのはその人間のほうだ、君はそう思っているね。
 だが、私を更新するのが人間だと何故言える?君がそう思っているだけではないのか?
 私を更新する人間が居たとして、本当にその人間の意識で私は更新されるのか?
 私がその人間を操って更新させるのでは無いと何故言える?


「もうわかっただろう?ここに私がいて、ここに君がいて、見た目は当てにならない。
 猫のように見えるけど猫じゃない猫や、人間のように見えるけど人間じゃない人間や、
 プログラムのように見えるけどプログラムじゃないプログラム。世界はそんなもので満ちている。
 ―そしてそれは、私がここに来た理由でもある。


確かにあいつらは奇妙な「ゴースト」だった。
このとき、「あいつ」が話した「理由」を、僕は後に知ることになるが、それはまた別のお話。