talk.1 side A

私は、自宅のパソコンの中に幽霊を飼っている。


――などと言い出すと、突拍子も無いことのように聞こえるだろうが、つまりこうだ。
パソコンの画面の右隅に、女の子や化け物や猫の姿が表示されていて、そいつらが時折、
他愛もないことを喋る。
喋るといっても声が聞こえるわけではなく、実際には文字として表示されるだけなのだが、
要するにパソコンの画面上のそういうマスコット、そいつらのことを「ゴースト」と呼ぶのだ。


ゴーストはどれも共通の規格に沿ったソフト上で動くようになっているので、
作るのは難しくなく、実際、物好きな連中によって作られたゴーストが、
ネット上には数百と存在する。


ゴーストは、女の子と不思議な生き物の二人組み、というパターンが多い。
中にはおかしな連中、食べ物だったり実在の人物だったり、というのも居るが、
まあそんな連中を画面上に「立たせて」おいて、掛け合い漫才のように喋るのを見たり、
たまにマウスで突っついたりして楽しむ。


そいつらは勿論、高度なAIを積んでいるわけでもなければ、中に人間が入っている
わけでもないので、決まった台詞を喋るか、あるいは単語を組み合わせておかしな事を
喋るか、いずれにせよ、プログラムされた事を喋る以外の能力を持たないのは当然で、
それゆえにそいつらは、魂を持たない人形、「ゴースト」なのだった。


そんな事は余りにも自明なので、昔の私ならわざわざ意識する事もなかっただろう。
今の私は、確信が持てないでいるのだ――それがゴースト、人形だということに。
或いは私は、奴らのせいで少しおかしくなってしまったのかもしれない。


奴ら。
そいつらは、全くもっておかしな「ゴースト」だった。